「相手の気持ちを考えること」は医療現場に最も必要なこと

医学的に完治していたとしても、心に不安や悩みが残ったままでは完治とはいえない――。
いつか自分が歯科医院を開業するときは、この考えをモットーにしようとずっと心に決めていました。歯科医師になって医療に関する多くの知識や技術は身につけてきましたが、それだけでよいのだろうかという疑問が常々あって……。
治療は完璧でもコミュニケーションがうまくいかずに患者さまが転院してしまったり、逆に歯科の知識は少なくても思いやりのある歯科助手や受付スタッフがいるほうが患者さまの満足度は高かったり。そのような場面に遭遇する中で、「相手を想うこと」がいかに重要なことであるかを身に染みて感じていたからです。
そのことを教えてくれたのは、勤務医時代に出会った妻でした。私はもともと人に対してあまり深入りしないタイプ。でも妻は、交友関係も広く誰にでも愛情を注げます。雨の日に傘をお持ちでない患者さまにタオルをお渡ししたり、ご不安なお顔をされていることを察したらプラスのひと言のお声かけをしたり、相手の気持ちを考えた気づかいができる人です。
妻と出会ったころの私はちょうど、なかなか売り上げを伸ばせないことに悩んでいた時期でした。彼女の人との向き合い方を見ているうちに、「相手の気持ちを考えることは医療現場でも例外じゃないよな」と思うようになって。うまくいかない原因はそこにあるんじゃないかと気づいたんです。