内藤先生が歯科医師を目指し、咬合学を重視するようになったきっかけを教えてください。
僕は高校卒業後、もともとは建築をやりたかったんです。住宅や店舗ではなく、飛行場やダムといった時間が経っても残る何かを造りたかったんですね。
ところが当時は高度経済成長期の真っ只中で、建築業界の競争が非常に激しくて。ちょっと厳しい世界だなとなったとき、内藤家は精神科から胃腸科、肛門科まで代々医者がそろっていましたから、まだいない歯科医をやってみないかということで歯科大学を受験しました。正直、この道を選ぶ強い動機があったわけではないんです。
大学に通い始めた1960年代の終わりごろは、日本の歯科はまだ黎明期でした。一部のドクターはすごく突出していたのですが、やはり勉強するには海外へ出ることが大事だなと。そこで歯学部の先生の紹介でたまたまチャンスがあり、アメリカの南カリフォルニア大学へ短期で勉強をしに行きました。皆さんもご存知、SJCDの山﨑まさお長郎先生や本多正明先生も一緒です。
ただ、わずか1週間という短い期間。もうちょっと残ってアメリカの様子を見てみようと考えていたところ、これまたご縁があって当大学院の講義や実習の助手をさせていただくことになったんです。ちょうどナソロジーのうねりがグッと波のように来ていた時代。咬合に関する講演が多く、普段だったら直接お会いすることのできないような高名な先生方のレクチャーを毎週聞くことができ、なかなかおもしろく感じましたね。日本では文献を読むしかなかった咬合学について、デンマークやスウェーデンといった海外の先生方のお話を聞くうちに、僕のお尻に自然と火がついたという感じです。
日本に戻ってからは若手の先生たちで集まり、定期的に勉強会を行なうようになりました。いわゆる「くれなゐ塾」の原型です。その中で当然、拡大の必要性についても議論されました。歯科の臨床というのはただ単に“見えればいい”という問題じゃないことは、日々実感していましたからね。歯や歯肉の外形やシルエットだけでなく、その先まで見なければならないんです。
ルーペを通して拡大すると、目に入ってくるのは一見静止画のようにも思えますが、実際の人間の体は細胞レベルで常に動いています。その見えている先で何が起きているのか。そこに気づけることで、口腔内の変化の予兆までわかってくるんです。だからこそ、普段の臨床から歯科医師は8倍、10倍のルーペを絶対に使うべき。さらに言えば、歯科衛生士やアシスタントも共有した情報をつかむべきだと思います。

